今日の日記

応召

こんな夜更けに
誰が来て
のっくするのかと思ったが
これはいかにも
この世の姿
すっかりかあきい色になりすまして
すぐに立たねばならぬという
すぐに立たねばならぬという
この世の姿の
かあき色である
おもえばそれはあたふたと
いつもの衣を脱ぎ棄てたか
あの世みたいににおっていた
お寺の人とは
見えないよ

山之口貘

————————————————–
かあき色=当時の軍服の色
召集令状がきて挨拶に立ち寄った僧の姿を見、戦争の矛盾を書いている。

山之口貘は一番好きな詩人だ。
何が起きても、起こらなくても、惑わされずに自分の目線で世の中を見ている。
無関心なのではなく、常に自分自身を含めた庶民生活の底から見続けている。
ただただ不安なことが多い毎日で、いまも山之口貘の詩を読むと少し勇気が湧く。

茨木のり子のエッセイ「一本の茎の上に」の中にもこの詩は紹介されている。
そこで山之口貘について、以下のように語っている。

狂気、異常、狐憑—–今ならばなんとでも言える一九四十年代、たいていの人が、こころの方は、
三十八度から四十度くらいの高熱を発し沸騰していた。からだのほうも栄養不足の結核で
微熱を発している人が多かった。そういうなかで心身ともに、平熱三十六度を保ちえた山之口貘の冷静さ。ふしぎである。

カテゴリー: book, diary   パーマリンク

コメントは受け付けていません。