スティーヴン・ミルハウザー 「ある夢想者の肖像」
デビュー作『エドウィン・マルハウス』と対を成すような作品。
どちらも私にとって唸るほど素晴らしく、それだけに取り扱い注意の書物。
一瞬露出する生々しい感情の動きや、訳もなく笑いが込み上げてくる瞬間の空気、
季節や1日のうちで、
それらを表現する時のミルハウザーの文章が強烈に好きだ。
全編を覆っている悲しさや不穏さがあるからこそ、そこに
『ある夢想者の肖像』を覆っている反復は小説の冒頭から姿を現す。
最初のうち、それは抜け道のない微睡みの中に連れて行かれるようで、
居心地の悪さを感じる。
けれど、とりとめのない反復の膜をめくっていくうち、緑の絆、白い月、
あーこれだ、これだ。こうゆう文章が読みたかったんだと思う。
反復が中毒性を持ち、決して飽くことのない落ち着かない緊迫感を保ち、どんどん心地良くなっていく。
本書に登場する主人公アーサーの台詞 「僕はただ、小さいころ読んだ、いまや消えた本たちの、記憶に残っている神秘を、
そして、この2冊の本が自分の本棚にちゃんと並んでいるのを、ふと確認する度に、
切ないような悲しいような、おそろしいような、愛しい気持ちがわっと蘇ってくる。